カナタ プロローグ




草の匂いがする。
だけど知っているそれとは違う。
自分の知っているそれは、むせるような、深い深い緑のにおい。
反射的に喉の奥に苦味を感じるような、野生のもの。


かすかな違和感の理由を考えながら、ゆっくりと目を開ける。
飛び込んできたのは、自分の目線のはるか上に茂る草花と、眩い光。
その正体が太陽だと思い当たり、思わず目を細める。

こんなに眩しいものだっけ…


ぼんやりとした頭で考えながら、けだるさの残る身体を起こす。
身体だけ起こしてみると、はるか上にあるように思われた草花は自分の胸元の高さしかなかった。
服を通しても伝わってくる草花の気配がなんとなく気持ち悪い。

はた、と思い当たり、恐る恐るといった様子で首をめぐらせる。

周囲は、見渡す限りの草原。風が吹くたびに音を立てて波を起こす緑の海。
手元まで目線を落とすと、申し訳程度に小さな紅い花が咲いている。


えっと…
どういう状況だ?これ。


覚醒したばかりの頭を無理矢理回転させようと試みる。
回転させてみて、なんというか、すごく間抜けなことに思い当たった。



「…ていうかあたし何。」





 

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