カナタ 一章 出会い 2




「…行くぞラシータ!」
「う、うん」
我に返った青年は、少年、ラシータを促し『足』の元に駆け出す。

どうしてこんなところに人が倒れている。
この場所には『普通の人間』は居てはいけないはずなのに。

混乱している頭を振り切るように向かった先には、一人の少女が、仰向けで倒れていた。

「…女!!??」

『足』の正体を見て、ジルは呆然とした。
少し遅れてラシータも横に並び、同じく唖然と少女を見詰める。

髪の色は榛。倒れているせいでその正確な長さはわからないが、おそらく肩より少し長い程度。
白い肌に、固く閉ざされた瞳。
少し汚れているゆったりとした布の服を腰紐で締め、膝まで覆われた長いスカートが無造作に広がっている。

『この場所』に知らない人間が、しかも女が倒れている。

「意味がわからん…」

ジルは額に手を置き、無意識に呟いた。
その横で呆然と立ち尽くしていたラシータも、ぴくりとも動かない少女を見て不安になったらしく、恐る恐る尋ねた。

「ね…ねぇジル。もしかして…し、死んでるの」
「わからん…って待てお前は動くな。俺が確かめる」
そろそろと少女に近づこうとしていたラシータを片手で制し、ジルは少女の側に膝を折った。
少しためらった後、そっと少女の細い腕を取る。

あたたかい。

少女の手を下ろし、ジルは安心したように息を吐く。
「…生きてる。眠っているだけだな、これは」
それを聞いて安心したらしいラシータも、ジルの隣にしゃがみこんだ。
眠っているだけだと言われると、途端に警戒心が薄れる。
「…どうする、起こすの」
「…どうしようなぁ」
情けない返事を返してしまったジルは、実際途方に暮れていた。

ここは「聖地」だ。
聖地で、見知らぬ人間に出会ったという話は聞いたことがない。

さて実際どうしたもんか、と頭を巡らせていると

「んー…」

少女がうめき、ラシータが目に見えてびくりと身体を震わせた。とっさにジルの服の袖を掴む。
側のラシータを意識しながら、ジルも内心の動揺を抑えながら覚醒しつつある少女を見詰めた。




なんだか人の声がするなぁ…

夢うつつの中でそれを確かめ、少女は少しずつ意識を鮮明にしていく。
そっと目蓋を開くと、4つの光が自分を覗き込んでいた。
それが人間の目だと気付いたとき、少女はバネのように一気に飛び起きた。


「うわぁっ!!!」
「わぁ!!!!!!!」
「わぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

草原に、三人分の悲鳴がこだました。








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